敵の情を知らざる者は不仁の至りなり

※この記事は2024年5月24日にX(Twitter)に投稿した記事です。

ロシアとウクライナの戦争は3年経っても終わりが見えません。
ロシアが3年前に起こしたこの戦争は、当初は「2週間で終わる戦争だ」と言われていました。
ロシアもそう思っていたから侵攻に踏み切ったと思われます。
でも蓋をあければ3年経っても終わりが見えない泥沼戦争。
最初からこうなると分かっていればロシアも侵攻はしなかったでしょう。

■なぜ2週間で終わらなかったのか?
欧州(NATO)や米国の介入が原因でしょうか?
世界がロシアの侵攻を許さなかったから?

実際のところ2週間で終わっていれば、欧州や米国の介入は間に合いませんでした。NATOに関しては3年経っても及び腰です。日本や世界のコメンテーターが声高に批難しても、ロシアの侵攻は止まりません。

単純に2週間で終わらなかったのは、核兵器を失っても「ウクライナが強かった」からだと思います。先日、ロシアの国防大臣ショイグは責任を取らされて失脚。ショイグはプーチンのイエスマンだったのでプーチンが喜ぶ情報しか報告していなかったと噂されています。

なのでロシア(プーチン)が苦戦しているのは「核兵器が無くても強いウクライナの情報」が足りなかったことが原因。ただすぐに責任を取らせるとプーチンの任命責任が問われます。なので3年も経った今頃になって更迭及び、その関係者が次々と消えていく…。まったくおそロシア。

■敵の情を知らざる者は不仁の至りなり
表題の言葉は有名な「孫子」が出典。「孫子の兵法書」のほうが呼称としては高名かも知れません。「孫武」が作者ですが「孫臏」が書いたという説もありました。(今のところ孫武で確定と言われています)

ちなみに孫臏は「孫臏兵法」という優れた書物を残しています。さらに補足を付け加えると孫臏の祖先は孫武なので「孫子」の影響も受けています。うーんややこしい。

「孫子曰く 相守ること数年、以て一日の勝を争う。しかるに爵禄百金を愛みて、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり」(数年にわたる戦争は、たった一日で勝敗を分けることもあるのに、役職や金銭を出し惜しんで敵の情報を探ろうとしないのは、兵士や人民に対する思いやりに欠けており、リーダー失格で勝てるわけがない)

なるほど。プーチンとショイグは声に出して朗読したほうが良いかもしれません。
孫子の基本は「戦わずして勝つ」です。「心を攻めるは上策、城を攻めるは下策」これは三国志の「馬謖」の言葉ですが、孫子もできる限り戦わずに相手を降伏させることが上策で、戦争を始めることは最後の手段と説いていました。
ロシアはそこまで追いつめられていたんでしょうかね?

■アラン・チューリングの悲劇
第二次世界大戦でナチス・ドイツが敗れるのは遅かれ早かれという意見もありますが、確実にナチス・ドイツの寿命を縮めた要因が一つあります。

「エニグマの解読」

当時、ナチス・ドイツは「エニグマ」と呼ばれる暗号機を使用していました。この暗号機は1京(1兆の1万倍)の組み合わせが可能だったので「解読は不可能」とされており、ドイツ軍の作戦も「エニグマは解読されない」ことを前提に立てられていました。
しかしイギリスによって、この暗号は解読されてしまいます。暗号の解読に貢献したのは「アラン・チューリング」という天才数学者。この解読によりドイツ軍のUボートなどの行動は筒抜けになり、連合軍は極めて有利に戦争を進めることになります。

こんな凄い功績を残したのだから、チューリングは幸せな人生を送れたのだろう…。否、彼の人生は悲劇の連続。まずは暗号解析の功労、これはドイツ軍に知られない様にトップシークレットとして扱われました。なので家族ですら彼の功労を知りませんでした。

もう一つの悲劇、彼は「同性愛者」だったこと。ある日、チューリングの家に泥棒が入り彼は警察から事情聴取を受けます。その際に彼は自分が同性愛者であることを打ち明けてしまい、そのまま逮捕されました。驚くなかれ、1950年代イギリスで同性愛者は「犯罪」だったのです。

その後、裁判でも有罪が確定し、トップシークレットにされた彼の功績を知らない世論から厳しく非難されました。守るべき家族からも厳しく非難されます。その結果、チューリングは「毒リンゴ」をかじって自死。1954年、まだ41歳でした。

彼の功績を世間が知るところとなったのは、トップシークレットに関する暴露本が出版された1970年代。死後20年経ってからのことです。2009年にイギリス政府が公式に謝罪しましたが、彼の免罪は当時の法務大臣が拒否。2013年にエリザベス女王が正式に恩赦を発効し、彼の名誉回復は40年の歳月を要しました。

今や「チューリング賞」は「計算機科学分野のノーベル賞」と言われ、新50ポンド紙幣にはチューリングが採用されています。
それほどの功績がありながら、彼の功績は、第二次世界大戦が終わっても(1945年終戦)まったく公表されませんでした。彼が有罪判決を受ける裁判(1952年)でもイギリス政府は一切関与しません。そこまで「チューリングの暗号解読」は世界に知られたくない「重要な情報」だったのです。

■大切なのは「正しい情報」の見極め
チューリングの悲劇は「正しい情報」を知らない世間や家族からの非難によるものでした。また正しい情報を知らないが故の「当時の差別」も根底にあります。チューリングのように、国家ぐるみで「正しい情報」が覆い隠されてしまい、そこに「差別」の要素まで加わると国民も正しい判断が出来ないという悲しい事例のように思います。

福祉の世界でも「情報」は大切です。「利用者の特性」「取り巻く環境」「周囲の社会資源」これだけではありませんが、正しい情報を把握しないと適切な支援はできません。「アレルギー」は分かりやすい事例で、正しい情報を把握していなければ命に関わる重大な事故に繋がります。

ここで大切なのは「正しい情報」というところです。現代は情報であふれていますが、間違った情報もたくさん流布しています。これを鵜吞みにしてしまうと、詐欺にあったり、騙されたりで本当に損しかありません。また悪い人は「知らない」ということに付け込んできます。騙されない為には、それをしっかりと判別するための「正しい情報」と「見極める力」が必要です。

孫子が言うように「役職やお金を出してでも…」は難しいですが、「普段からアンテナを張っておく」ことで「正しい情報」を更新していくのことが大切なのかもしれません。
先日、袴田さん事件の再審がありましたが、これも慎重に正しい情報を見極める必要があると思います。

※画像は「守屋洋」先生の「中国古典 一日一話」からです。

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